今年も曲をたくさん作ったるぜー!と意気込んでおられる事と以下同文。
今回は、ディレイに関するお話をちょこっと。
ディレイはエフェクタの中ではリヴァーブ・コーラスと共にポピュラーな存在です。
メロディやブラスセクションに薄くかけるも良し、幻想的な矩形波系リードに深く
かけるも良し、ストリングスの和音にショートディレイをかけてコーラス風に使うも
良し。意外と万能な使い道のあるエフェクタで、今日の音楽制作の現場においては
不可欠な存在となっていますね。
そんなディレイの歴史を辿ってみたいと思います。
※かいつまんで大雑把に解説しているだけですので、細かい部分の仕様などは省いています。
ご了承くだしあ。
■デジタルディレイ
音源搭載のものや、ラック・ペダル型エフェクタに搭載されているディレイの多くは、
デジタルディレイです。
デジタルディレイの基本的な動作はサンプリングのそれと同様で、入力された音を
ADCによって符号化、RAMに一旦保存したのち、それをDACに流すという動作を
絶え間なく行っています。

タイマにディレイタイムを設定すると、その間隔でクロックが出力されます。その
クロックをトリガとしてRAMに保存した情報を順次DACに流しています。
フィードバックで設定された値の回数分だけトリガを飛ばして繰り返しながら、
徐々に音量を絞って行き、指定回数繰り返したらその保存された内容はRAMから
消されます。
なので、デジタルディレイはDSPチップのすぐ近くに大抵は数KBのRAMが載って
います。
SC-88ProのDSPに繋がれたDRAM
デジタルディレイの利点は3つあります。
一つ目は、残響部分の音質劣化がとても少ない事。ADC/DACのビットレートにも
よりますが、44.1kHz・16Bitであれば音質はCD並となり、原音に近い高音質な
ディレイが返ってきます。
二つ目はディレイタイムを長く設定できる点。
もちろん機器によって実用的な上限は決められていますが、鍵盤をワッと弾いてから
最初のディレイがワッと返ってくるまで3年かかる、なんていうものも作ろうと思えば
作れてしまいます(途中で停電しなければ、ですが…)。
三つ目は、複数のディレイを同時に扱える点。
ディレイにはタップという概念があり、個別に設定したディレイタイム・フィード
バックでディレイを同時に複数鳴らす事が出来る機種があります。

ディレイの複数タップ
ディレイの定位をタップごとにL・中央・Rと振り分けてやれば、非常に複雑かつ
広がりのあるディレイを得る事が出来ます。
※似たような名前にタップテンポディレイというものがありますが、タップテンポ
とは曲の拍に合わせてディレイのTAPボタンを押すと、そのタイミングに合った
ディレイタイムに設定してくれる機能で、ここでのタップとは意味が異なります。
■アナログディレイ
アナログディレイはデジタル⇔アナログの相互変換などは行いません。簡単に説明
すると、入力された音を一旦バケツに入れ、それを次のバケツに入れ…という具合に
音を次々「音の入れ物」に移し替えて行く作業をしています。
移し替えるのにわずかな時間がかかる為、移し替え終わって音が出る頃には原音から
時間が経過しています。

このようにして、一時保存せずリアルタイムに時差を作っていく事で、ディレイを
構成しています。このような構造をBBD(Bucket Brigade Device)と呼びます。
※Bucket=バケツ なので、まさにバケツリレー方式ですね。
このバケツの数が多ければ多いほど、長いディレイタイムを設定する事が出来、
バケツの数は「1024ステージ」という書き方で表されます。
アナログディレイはデジタルほど長いディレイタイムを設定する事は出来ません。
また、1ループごとにLPFを通過するので、ディレイ音は繰り返されるごとに音質が
劣化しこもった音になって行きます。
そのこもったディレイ音こそが、アナログディレイの特徴でもありますね。今でも
あえて温かみのあるアナログディレイを使うユーザが多いです。
■テープディレイ
これぞまさしくディレイの元祖です。説明よりもまず構造の図を見て頂いたほうが
早いかも知れませんね。

これがテープディレイの構造です。テープを一定の速度で走行させ、音声を左の
録音ヘッドに流すと、その音声がテープに記録されます。そのままテープは流れて
行き、複数ある再生ヘッドに到着すると、そこでテープに記録された音声が信号と
して拾われ、原音にミックスされて出力されます。
再生ヘッドの信号をそのまま出力したのではディレイが減衰しなくなってしまう
ので、録音ヘッドから離れるにつれ再生ヘッドの音量は小さくなるように設定
します。
ここでは例として原音100%に対してヘッドごとに25%減衰するように書いて
いますが、どれだけ減衰させるかは多くの機種で任意に設定する事が出来ます。
ディレイタイムはテープの走行スピードか、再生ヘッドの位置を移動させて決定
します。ヘッドの数は機種によって異なりますが、3~5個のものが多いようですね。
ですから、再生ヘッドの数=フィードバックの上限という事になります。
テープ経由のアナログ方式なので、テープの質や状態によって音質が劣化します。
テープや駆動部分の劣化、ワウ・フラッターなどによってテープスピードが僅かに
変動すると、それに応じてディレイのピッチも変わってしまいます。
当然、テープが切れればディレイも鳴らなくなります。
実機はほとんどが1960年代~に作られたビンテージものばかりなので、入手は
難しいのですが、DAW上ではテープディレイをシミュレートしたプラグインが沢山
出ていますから、それらを利用してテープディレイの雰囲気を味わうのもまた
楽しいと思います。
とまぁ、様々なディレイを紹介しました。音質や使い勝手の面ではデジタルが一番
良いのですが、アナログやテープにあるローファイ感も、意外と良いものです。
古いものは入手が難しい機種が多いですが、もしオークションや中古ショップ等で
見かけたら、是非使ってみて下さい。きっと気に入ると思いますよん。

